いすゞ自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長COO:南真介、以下「いすゞ」)と国立大学法人東京大学(所在地:東京都文京区、総長:藤井輝夫、以下「東京大学」)は1月8日(水)、いすゞからの寄付金10億円をもとに、東京大学が大学院工学系研究科(研究科長:加藤泰浩)内に「トランスポートイノベーション研究センター」(センター長:高橋浩之 大学院工学系研究科教授[予定])を開設することについて、本郷キャンパスの安田講堂で合同記者会見を開催しました。

会見には、東京大学から藤井総長、加藤研究科長、同センター長に就任する高橋教授の3名、いすゞから会長CEO 片山正則、取締役 専務執行役員 商品技術戦略部門EVP 藤森俊の2名が登壇しました。報道機関・ジャーナリストからの注目度も高く、新聞・テレビ・雑誌などを中心に約30名が来場しました。

冒頭、藤井総長が、欧米の有力大学と比較し、日本の大学が自律的な財務基盤の構築に取り組み始めたばかりである状況を説明。2年後の東京大学創立150周年とその先の150年を見据えて、財務体制の強化・拡充および経営力の確立を推進する中、寄付金の運用益により研究組織を運営する「エンダウメント(大学独自基金)」の仕組みを新たに設けた経緯を紹介しました。藤井総長は「これからの社会からのニーズに応えるべく、本学の有する知を存分に投入し、研究・教育・社会実装に貢献できればと考えている。このセンターの活動が社会へのインパクト、そして、新たな知の創造へつながることを大いに期待する」と話しました。

会長CEO 片山はあいさつの中で、「『運ぶ』のイノベーションを持続的に起こしていくには、いすゞだけでなく、より幅広い分野、多面的な視点を取り入れていかなければならないという思いを強く抱くようになった。共創を検討する中で東京大学からお声がけをいただき、新しい研究の取り組みができないか協議してきた」と経緯を語りました。さらに、トランスポートイノベーション研究センターへかける期待として、①持続可能な形で、アカデミアの観点から社会課題解決の糸口を見つけること、②未来の「運ぶ」をカタチづくること、③人財を育成すること――の3点を挙げ、「日本の物流問題の変革をけん引し、『運ぶ』のイノベーションを創造し続けたい。東京大学とともに推進する世界最先端の研究活動にご期待いただきたい」と締めくくりました。

続いて、加藤研究科長より、2017年に東京大学に社会連携・産学協創推進室を設置、産業界と連携して社会連携講座を開講し、共同研究の活性化を進めてきたことが紹介されました。共同研究を成功に導くには、講座期間と連動する3~5年程度の専任の特任教員の確保とその後の展開先が課題となる中、「(いすゞからの寄付を基に)優秀な教員が任期に縛られず、長期的な視野から境界分野の研究にしっかりと取り組み、成果を出していける新しい仕組みが実現できることになった」と恒久組織の設立にこぎつけた意義を語りました。「いすゞからの寄付金の運用益を活用するが、大学としての自由な発想に基づき研究を行うものだ。物流・交通の分野における多くの企業とも連携して研究を進展させていくことで、学術の発展を劇的に進めるとともに社会に貢献してまいりたい」と述べました。

さらに、高橋教授より、トランスポートイノベーション研究センターの概要について説明があり、その後、報道関係者との質疑応答では、多くのご質問をいただきました。主な質疑応答は以下のとおりです。
- Q1商用車メーカーであるいすゞが物流・交通分野の研究に携わる意義は。いすゞからも研究員を派遣するとのことだが、研究成果がいすゞの事業そのものにどう貢献するのか。
- A1いすゞは従来の事業に加え、新規事業を開拓しているが、今回のトランスポートイノベーション研究センターの設立は、我々の事業拡大に直結するものではないだろう。研究センターには、まず社会課題に直接向き合った形でのスケールの大きな研究を大いに期待している。その中で輸送機器メーカーとしていすゞの強みを生かせる部分が出てくれば、もちろん事業に結び付けていきたいが、それを前提にしたものではない。アカデミアのスケールの大きな研究の中で、我々が社会のお役に立てるものが必ず出てくると信じており、間接的につながってくると考えている。
(会長CEO 片山より回答)
- Q2藤井総長のスピーチの中で「具体的なインパクトを生み出していきたい」といった趣旨の発言があった。自動運転という日進月歩の分野において世界中で競争が激化する中、「いつ頃を目途に」などタイムスパンがあれば教えてほしい。
- A2物流・輸送・交通の分野では今、大きな変革の波が来ており、産業界との対話を通じて、アカデミアとして大きな構想を作っていく。今まさに世界各国でいろいろなことが動いており、そこに向けてインパクトが与えられるものにしていければよい。東京大学では、他分野の教員をはじめとする学内構成員の知も結集しながら大きな流れを作っていくことができる。
- A2長いスケール・時間をかけて、次々に成果を出していくことを目指すが、一番重要なのは、大きなビジョンとして応えていくということ。今回大きな寄付をいただき、その運用益を使って期限の定めなく研究できるのは最も大きなポイントだ。多くの若い教員が斬新なアイデアを次々に出し、それが次の活性化の種につながるよう、ポジティブにフィードバックをかけながら成長していきたい。それが東京大学、さらには我々工学系研究科の責務であるし、その期待に十分に応えていきたい。
(藤井総長より回答)
(加藤研究科長より回答)
- Q3研究を進めていく中で同業他社や物流に明るい企業など、他の企業が関与してくる可能性はあるのか?
- A3東京大学が決めることではあるが、これが契機となって同業他社や異なる業界の方々が入ることにより、トランスポートイノベーションに向かって志を一つにしていくことがもっとも望ましい形だ。新しい社会づくり、モビリティ社会と言ったときに、あまりにも大きく、いろいろな事業領域が入ってくるうえ、技術の進化がとてつもなく早いので、そのビジョンを実現する上でどういった事業・技術領域で対応していくかというのが我々の非常に大きな課題だ。本研究センターができ、色々な方が参画することによって、幅が広く、しかも深さのある学術研究がなされていくことを大いに期待している。それにより、必ずや世界との競争で勝てるだろう。
- A3東京大学としても、大きなスケールで物流・交通分野のビジョンを作っていこうと考えている。これは新しい社会をどのようにデザインしていくかということだ。これには多様な専門知識というものが必要になるので、さまざまな事業領域の企業・産業界の皆さま、そしてさまざまな技術領域・専門分野の方々にぜひご賛同・ご参加いただいて、より良いビジョンを作り上げていければと考えている。
(会長CEO 片山より回答)
(藤井総長より回答)


新たに開設されるトランスポートイノベーション研究センターは、物流・交通分野の研究・教育に特化した恒久組織として、本郷キャンパス内に2月1日に開設されます。専任教授を3名採用し、それぞれに研究室を置く予定で、各研究室には10名程度の学部生・院生が所属することを想定しています。また、いすゞからは毎年3名の技術者・研究者を派遣することを計画しています。東京大学はエンダウメント型研究組織の制度を活用して、いすゞからの寄付金10億円を基金として運用し、そこで得られた運用益などをもとに同センターを運営します。
いすゞは、東京大学の高度な「知」を活用し、産学が手を携えて物流・交通分野の課題に取り組むことは、いすゞグループがPURPOSE(使命)に掲げる「地球の『運ぶ』を創造する」の実現をさらに加速させることにつながると確信しています。いすゞと東京大学は、学術の発展と人財の育成を通じて、社会に貢献してまいります。

<東京大学 ARTICLES(2025年1月15日)>
東京大学といすゞ自動車株式会社、合同記者会見を開催
以上