鷹野運送株式会社

競走馬をストレスフリーで全国の競馬場へ運ぶスペシャリスト企業へ成長。

先代社長の逝去に伴い25歳の若さで鷹野運送株式会社を引き継いだ鷹野衛氏は、デリケートな競走馬を安全確実に運ぶため、ドライバー教育に注力すると共に、綿密な運行・車両管理を実施。さらに、独自に最新鋭の馬匹運搬車を開発。関西屈指のスペシャリスト企業として成長し続けている。

4代目若社長がけん引 馬匹輸送のスペシャリスト

滋賀県南西部に位置する栗東市は、言わずと知れた“馬の町”。日本中央競馬会(JRA)の栗東トレーニング・センター(通称:栗東トレセン)の所在地として知られる。甲子園球場約40個分(約150万㎡)に相当するという広大な敷地には、様々な調教施設・設備が設けられており、競走馬2,000頭超が飼育・育成されている。栗東トレセンには、92厩舎(2022年3月現在)があり、調教師、調教助手、厩務員たちが各レースに向けて、競走馬のトレーニング、体調管理を行っている。

栗東トレーニング・センター(滋賀県)の厩舎を顧客とする同社は、メジロマックイーンやディープインパクトなど、数多くの名馬を運搬してきた実績を持つ。(イメージ写真)

京都府長岡京市に本社を置く鷹野運送株式会社は、創業時から馬匹輸送を手がけてきた関西屈指のスペシャリスト企業である。ところで、4代目社長の鷹野衛氏(現在41歳)は、若干25歳という若さで社長に就任。それは、あまりにも突然な事業承継だったという。

創業者の曾祖父、鷹野 卯一郎氏
右下:先々代の奥様

栗東市で生まれ、身近で馬匹輸送の仕事を見て育った鷹野社長は、物心ついた頃から家業を継ぎたいと考えていたそうだ。大学を卒業すると、経験や知識が活かせるように物流アウトソーシング企業に就職したという。ところが、順風満帆だと思われた鷹野社長の人生に、突如波乱が巻き起こる。その年の12月、会長を務めていた祖父が急逝。さらに、その翌月には先代社長の父親が末期がんと診断され、余命半年の宣告を受けることに…。鷹野社長は、勤務先を1年足らずで退職し、急遽同社に入社。それから、父親は2年間の闘病生活の末、多くの人に惜しまれながら永眠。鷹野社長は、そのときの心境を次のように語られた。

「覚悟はしていましたが、いざ社長に就くと、何度もプレッシャーに押しつぶされそうになりました。しかも、競走馬を取り扱う馬匹輸送は、非常に専門性が求められる仕事。業務内容や運転技術、車両をはじめ、栗東トレセンの仕組みや馬の生態のことなど、覚えなくてはならないことも沢山ありましたからね。悲しみに暮れている暇など、まったくありませんでした」

このときから、馬匹輸送のスペシャリストをめざす鷹野社長の奮闘の日々が始まる。安全確実に馬を運ぶのは当たり前。輸送時に競走馬のパフォーマンスを低下させないことをミッションとし、輸送品質を高めるためなら何でもやる、一切妥協はしないと決めたのだという。「力を温存したまま、最後の第4コーナーを回らせてあげたい、という気持ちで運んでいます」

と鷹野社長は、満面の笑みを浮かべながら語られた。

会社概要
代表取締役 鷹野 衛 氏
会社名
鷹野運送株式会社
所在地
京都府長岡京市調子1丁目12-3
設立年月日
1959年
代表者
代表取締役 鷹野 衛
従業員数
54名/9名(グループ会社)
保有車両台数
50台/9台(グルーブ会社)
2022年末に完成予定の新社屋及び車両整備場 (滋賀県栗東市)

栗東トレセンを起点に全国の競馬場へ輸送

現在、同社は、栗東トレセンを起点に、春と秋は、G1レースが開催される中山・東京・京都・阪神競馬場へ、夏は札幌・凾館・新潟・福島・中京・小倉競馬場へ競走馬を運ぶ。また、交流戦などに出走するときは、地方競馬場(全国15カ所)や、放牧地の牧場(北海道等)へ輸送することもあるそうだ。北海道や九州への長距離輸送が増える夏場が繁忙期だという。

顧客は栗東トレセンの厩舎で、レースの出走馬か確定すると搬送依頼がくる。木曜日には運行車両及び担当ドライバー、出走馬の積み合わせを決定。レース開催日に合わせて、金~日曜日にかけて競走馬を運ぶ。

阪神・京都・中京のレースは、日帰り運行で、早朝4~5時に出社・点呼して、6時までに各厩舎で競走馬を積み込んで出発。8~10時までに競馬場に到着する。そして、レースを終えた馬から順次積み込んでトレセンまで戻すという運行形態だ。その他の競馬場へは、レース前日に輸送。20時間以上かかる凾館・札幌への輸送は、レースの1~4週間前までに運ぶことになっている。なお、同社が1年間に運ぶ競走馬は、優に2万頭を超えるという。その中には、メジロマックイーンやディープインパクトなど、G1レースを制した数多くの名馬も含まれている。G1に出走するような有名馬は、馬が落ち着くように毎回、同じ馬運車で運ぶことにしている。

代表取締役 鷹野 衛 氏

「競走馬を運ばせていただくことは、非常に名誉なこと。その期待に応えられる輸送サービスを提供したいですね。」

馬匹輸送に精通したプロドライバーを育成

馬匹運搬車で運ばれる競走馬は、狭い馬室で過ごすことを余儀なくされるため、当然、輸送時間が長くなるほどストレスがたまる。しかも、競走馬によって体質や気性、クセなどが異なるため、臨機応変な対応が求められる。したがって、競走馬の性質、状態によって積み付け場所や順番などを変えたりすることもあるそうだ。同社では、事前に営業担当者が調教師から馬の状態や要望をヒアリングして、ドライバーに伝えているのだという。当然のことながらドライバーは、競走馬に極力負担がかからない運転技術をはじめ、競走馬を取りさばく技能、一定の競走馬に関する知識などが求められる、と鷹野社長は話す。

「当社では、大型車の乗務経験10年以上で、さらに一定期間無事故無違反であることが採用条件となります。また、ドライバー教育に注力しており、入社後1年間は見習い期間として、業務に必要なスキルを習得してもらいます。ベテランになると、運転しながら競走馬の些細な挙動を察知して柔軟に対応することができます。馬匹輸送のスペシャリストの域に達するには、最低でも10年はかかりますね」

また、同社は車両整備部門を設け、日々丹念に車両整備を実施している。遠隔地へ運行する際は、整備士も同乗し、万一の車両トラブルに備えている。さらに、DPDの不調やエンジン故障の予兆を早期に検知して知らせてくれるプレイズム(いすゞ車に装備)が、安全確実な運行を支えている。運行管理面では、IP無線を全車両に装備。車両の位置情報の把握、迅速な情報伝達に活用するなど、安全かつ円滑な運行管理を実現している。

独自に開発した最新鋭の馬匹運搬車

馬匹運搬車の開発に並々ならぬ情熱を注いできたという鷹野社長。大型トラックギガをベースとした馬匹運搬車を初めて導入したのは、2012年のことである。ヘッドライト一体型バンパーのフロントデザインが気に入って、試しに1台導入することにしたのだという。

「驚いたのは、エンジン音の静かさとロールの安定性。馬匹運搬車に求められるダントツの基本性能を備えていると実感しました。実際に乗車した複数の厩務員の方からは、ぐっすり眠れた、馬も今まで以上にリラックスしている様子などと高く評価されています」

当時、関西でギガの馬匹運搬車は皆無だったが、これを機に評判が広がり、ギガを導入する同業者が増えたそうだ。

さて、馬室に施された主な装備は次のとおりである。◎車両の安定走行を促すボディ後方のリアウイング。◎運行中、運転席から競走馬の様子を確認するカメラとモニター。◎競走馬のケガを防止する両側面のクッションシートと衝撃が加わると外れる馬栓棒。◎温度の上昇を抑えるため、車両内部に遮熱塗料を塗布(米国NASA開発)。◎馬室を20℃程度に調整するエアコンを完備。◎糞尿や馬室の乾燥によって発症する「輸送熱」対策として、プラズマクラスター(マイナスイオン発生器)と、次亜塩素酸対応加湿器を導入。◎馬室にクラッシック音楽を流すことで、競走馬をリラックスさせる(スピーカー設置)。

マイナスイオン発生装置(上をはじめ、鎮静効果のある青色LED (下)など、様々な設備を装備。
静粛性、安定走行性が好評な大型トラックギガ(380PS)をベースに馬匹運搬車を開発。

なお、馬匹運搬車には厩務員も同乗するため、運転席後部に乗車スペースが設けられており、走行中も馬室に出入りできるようになっている。

同乗する厩務員の乗車スペース
上部はドライバーの仮眠スペース
ドライバー 千引 浩嗣 氏

「馬が暴れたときは、必ずドライバーや厩務員の方から、そのときの状況を伺い、原因を究明し、車両の改良につなげてきました。今後も車両に対する設備投資を惜しまず、より良い馬匹運搬車開発を進めていきたいと考えています。そして、将来的には、海外でも当社の馬匹運搬車を運行させ、日本と海外の競馬の橋渡し役を努められたら嬉しいですね」

と最後に語られた鷹野社長は、50歳までに海外進出の夢を叶えたい、と意欲を見せる。鷹野社長の飽くなき挑戦は続く。

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