時代の変化に対して柔軟に対応できる組織へ
東海3県を中心に、主に石油やLPガス・都市ガスの販売事業を展開してきたマルエイグループ。その輸配送業務を半世紀以上にわたり担ってきたマルエイ運輸株式会社は、言わばエネルギー輸送のエキスパート企業である。現在、同社は、岐阜県、愛知県、三重県、神奈川県に営業所を9拠点(本社営業所含む)開設。愛知県、三重県のプラントから石油製品やLPガスを集荷し、各給油所へ輸送。あるいは充填所(貯槽タンク)を経由して、シリンダー(ガスボンベ)輸送を行っている。徹底した安全管理と、長年培ってきた輸送システムを駆使し、地域社会のライフラインを支え続けてきた。

また2006年からは、株式会社マルエイ(親会社)が販売事業を手がける天然水「カリメラの水」「リディア・ウォーター」の集荷(取水工場)及び配送(個人・企業等)業務を引き受けてきたそうだ。月7~8,000本を配送するという本社敷地内には、一時保管倉庫と共に、ウォーターサーバーの定期クリーニングやメンテナンスサービス(部品交換作業等)を提供するメンテナンスセンターが設けられている。

さらに2012年には、尿素SCRシステム専用の尿素水「アドブルー」の製造・販売を開始。同社は「アドブルー」に含まれるトリウレット(不純物)を除去する製法を確立しており、特許を取得。2022年には、アドブルー製造・販売のワールドライセンスをドイツ自動車工業会から取得している。同社の高品質な「アドブルー」は、岐阜県をはじめ、愛知県、福井県、滋賀県などの顧客(約350社)に配送されているという。

実は、10年ほど前に本誌に登場いただいたことがある同社。当時、専務として取材に応じてくださった澤田正二氏は、これらの新規事業を軌道に乗せるため、積極的に取り組まれてきたそうだ。2021年には社長に就任され「CHANCE&CHANGE&CHALLENGE(好機を逃がさず、変化を恐れず、挑戦し続ける)」をスローガンとして掲げ、次世代に向けた組織づくりを進めている。
「カーボンニュートラルやデジタルトランスフォーメーションの進展、労働人口の減少など、企業を取り巻く事業環境が大きく変わろうとしています。創業以来、当社は順調に業績を伸ばしてきましたが、これからは時代の変化に、しなやかに対応できる組織でなければ、先細りは免れないでしょう。この時代の変化を好機として捉え、いろいろな可能性にチャレンジする中で、当社の経営理念である“物流事業を通じて永続的・発展的な幸せ社会の創造”を実現していきたいと考えています」
と語られた澤田社長は、物流という枠にとらわれず、柔軟な発想で新しいビジネスの種を見つけ出そうとしている。

- 会社名
- マルエイ運輸株式会社
- 所在地
- 岐阜市東中島1丁目12-10
- 設立年月日
- 1965年12月17日
- 代表者
- 代表取締役社長 澤田 正二
- 従業員数
- 140名
- 保有車両台数
- 143台
オフシャルソングに込められた安全への想い
変化に強く、そしてイノベーションが起きる組織づくりに突き進む澤田社長だが、企業のトップに立ち、あらためて決意したことがあるそうだ。それは、安全管理体制のさらなる強化である。以前に同社では重大事故が発生。以来、澤田社長は、必ず命日に遺族のもとを訪れ、遺影に手を合わせてきた。そして“この事故を決して風化させてはいけない”と心に強く留めてきたという。
ところで、警察庁の調べによると、自動車と歩行者が衝突した交通死亡事故の原因は、約7割が横断中の事故である。また、信号機のない横断歩道で一時停止しない自動車が、およそ6割(2022年:JAF調べ)にのぼるという憂慮すべき実態がある。澤田社長は、こうした今日の交通状況を踏まえ、数年前から「Respect the Law38」プロジェクトに参画。これは道路交通法第38条(横断歩道等における歩行者等の優先)の認知・遵守を推進するプロジェクトで、愛知県警をはじめ、多くの企業が協賛している活動なのだという。同社では「歩行者優先をします/歩行者優先を伝えます/歩行者優先を広めます」というプロジェクトの理念に基づき、社内研修などで「歩行者等の優先」の法規遵守をドライバーに徹底指導している。
また、これを一過性の活動に終わらせないため、その想いを込めたオフシャルソング「オレは、走る。」(社歌)を制作し、自社のYouTubeチャンネルで動画を配信している。作詞・作曲を手がけたのは、同社に勤務しながら音楽活動を続ける藤本僚氏。「メジャーデビューの夢がかなうまで、ウチで働かないか」と澤田社長が声をかけて採用した逸材なのだそうだ。ちなみに、澤田社長は、作詞にも加わっており「途切れるクルマを待つ君に気がつき、止まるオレに、チョコンと頭下げる君の笑顔~」という歌詞は、まさに澤田社長の想いが込められている。澤田社長は、安全への取り組みについて次のように語られた。
「長年、危険物を取り扱ってきた当社は、意欲的に安全活動に取り組んできましたが、重大事故の発生を機に、あらためて安全は、すべての業務における最優先課題であり、同時に、この取り組みに終わりはないと実感しました。今後は、人々の暮らしや産業活動に必要な物流を確保するためにも、安全運転の模範となるような教育、指導を継続して実施していく方針です」


ドライバーの心に届く子供たちの絵を車両に掲示
また同社では、交通事故をきっかけに活動が始まった「子供ミュージアムプロジェクト」にも参画しており、そのセレモニー会場に会社を提供したこともあるそうだ。現在、車両30台に加え、社内や社屋の扉などに子供たちの絵を掲示することで、ドライバーの安全意識の向上を図っていると澤田社長は話す。


「管理する側の会社、管理される側のドライバー、組織における立場上の関係は、ときに義務的で窮屈なものになりがちです。また、イライラしたり、焦ったり、疲れていたり、そうした心の隙間があるときに、誰の心にも必ずある優しい気持ちを呼び起こしてくれるのが子供たちの絵なんです」
さらに、社内を拝見すると、安全意識を高揚させるポスターが多数掲示されているほか、独自にバインダー式の「安全手帳」を手作りで制作し、全従業員に配布している。この手帳は、業務に必要な行動指針やドライバーの心得、各作業の手順・方法を網羅。さらに、家族の名前や誕生日の記載、写真も挿入できるように作られており、いついかなるときもドライバーの安全意識が途切れることがないように工夫されている。

地域社会から信頼される健全な企業をめざして
同社の主力車両である大型タンクローリーは、近年いすゞ車が増えているとのこと。営業部・保安部常務執行役員の桑原章氏に車両の導入状況についてお話を伺うことができた。

「いすゞ車の充実した安全装備や、すぐれた省燃費性能を高く評価しています。また、乗り心地の良さや操作性の高さがドライバーに好評な点も、いすゞ車を選ぶ理由のひとつですね」
同社のドライバーは、危険物を取り扱うため、希望に応じて資格取得支援も行っており、様々な資格を有する“多能化”が進んでいる。また、連続4日間以上の連休と休暇取得手当てを支給する「ドリーム有給休暇」の推奨、親孝行月間(4月)の孝行手当ての支給などユニークな福利厚生制度なども実施。働きがいがあり、働きやすい職場づくりを推進しており、ドライバーの離職率も低いと澤田社長は語られた。

「私は、従業員の皆さんに仕事以外の時間も大切にしてもらいたいと考えています。そのため、早くから労働時間をしっかり管理。冬季・夏季の労働時間に差はありますが、年間通して法定労働時間を超えて勤務することがないように体制を整え、すでに『2024年問題』もクリアできています。今後は、変化に対応できる人材を育成すると共に、地域社会から信頼される健全な企業をめざして事業に邁進してまいります」

すでに、新分野の輸送にも進出しており、その成果も出始めているという同社。安全と安心を最優先とする澤田社長は、次世代に向けて同社の事業を再構築していくことだろう。
※掲載内容は2023年2月1日取材時点のものとなります
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